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第43話 黒の魔道士

Author: 青砥尭杜
last update Huling Na-update: 2025-03-06 22:49:28

 ホスト国の案内役としてセナート帝国の帝都までの旅程を共にしたシルビアと別れたカイトは、護衛というより旅の道連れといった感じになりつつあるセリカとステラの二人と一緒に迎賓館の中にある食堂で夕食を済ませた。

 食事を終えたカイトは「たまには一人の時間も」と、安全であろう迎賓館からは出ないという約束も付け加えてセリカとステラから了承を得た。

 カイトが迎賓館内のラウンジにあるバーのカウンターで独りの時間を愉しんでいると、背後から一人の女性が声をかけてきた。

「わたしも、ご一緒してよろしいですか?」

 その声に振り返ったカイトは声の主である女性の顔を見て驚いたが、すぐに表情を微笑に変えて立ち上がった。

「ヴァルキュリャ卿ですね。はじめまして。カイト・アナンと申します」

 カイトが右手を差し出して握手を求めると、ほぼ同じ身長でカイトと目線の高さが近いヴァルキュリャは朗らかな笑みで握手に応じた。

「早くお目にかかりたいと思っていたカイト卿が「一人でバーにいる」と聞いたので「もう行っちゃえ!」って感じで、来ちゃいました。ヴァルキュリャ・ニューウェイです」

 快活な口調で「監視の対象であるカイトが一人になったタイミングを狙った」ことを打ち明けたヴァルキュリャに対して、カイトは潔い人柄の女性という印象を持った。

「それは光栄です。よろしければ、どうぞ」

 カイトが隣の席を勧めると、ヴァルキュリャは「ありがとうございます」と素直に応じてカウンターのスツールに腰掛けた。

 ヴァルキュリャは漆黒の軍服姿だったが、魔道士として軍服を着用する際には常に羽織るのが作法とされるマントは身に着けていなかった。

 マントに大きく刺繍されるエンブレムと席次を示す数字は無いものの、その左胸には山吹色で刺繍されたコンパスのエンブレムと「Ⅰ」の数字が見える。

 七つの海を制するとも称される海洋覇権国家・ブリタンニア連合王国の筆頭魔道士団であるメーソンリー魔道士団の首席魔道士を二十一歳の若さで務めるヴァルキュリャの威光を、左胸に小さく刺繍された「Ⅰ」の数字が示していた。

「同じものでよろしいですか?」

 カイトがワインのボトルを手に取りながら訊くと、ヴァルキュリャは「ええ」と笑顔のままうなずいた。

 初老のバーテンダーが素速くも音は立てない所作で用意した新しいワイングラスにカイトがワインを注ぎ入れる。

 ヴァルキュリャが「ありがとうございます」と礼を添えながらグラスを持ち上げ、二人での乾杯となった。

「太魔範士の授与、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 二人は同時にワイングラスを傾けると静かにグラスを置いた。

 ヴァルキュリャがまっすぐにカイトを見つめる。

 黒髪のショートボブに黒い瞳。漆黒の装いも相まってモノトーンが白い肌を際立たせる女性だとカイトは思った。

 ヴァルキュリャが蠱惑的な笑みを浮かべた。カイトは内心ドキリとしたが顔には出さないように努めた。

「無属性のオーラを、こんなに間近で見るのは初めてです」

 ヴァルキュリャはさらりと「世界でもごく少数しか存在しない魔力の量や質をオーラとして見ることができる一人」であることを打ち明けた。

 聖皇に類する特殊な能力として内密にするのが通例である能力を、初対面の自分に対して打ち明けたヴァルキュリャの真意を推察したカイトは自分も同じ能力を持っていると打ち明けることにした。

「俺も黒く見えるオーラは、初めて拝見します」

「不気味でしょ」

 くすりと笑ってみせたヴァルキュリャが、自嘲の色を含んだ笑みを浮かべる。

「いえ、俺は、率直にカッコいいと思いましたけど」

「格好いい……ですか?」

 カイトの感想に意外な驚きを持ったヴァルキュリャがオウム返しに訊くと、カイトはこくりとうなずいてから答えた。

「ええ、漆黒の鎧と漆黒のオーラを纏う黒騎士みたいで格好いいと思いました」

「黒騎士……」

「失礼しました。連合王国の首席魔道士である卿に向ける感想ではありませんでした」

 黒騎士が持つ本来の意味を思い出して不適切だったと詫びるカイトに対し、ヴァルキュリャはすかさずフォローを入れるように応じた。

「いえ、カイト卿の口調から本来の意味とは違う印象を受けたので、少し意外だっただけです」

「俺のいた世界では、黒騎士は物語によく登場するモチーフで、主役格のカッコいい人物が多いんです」

「そうでしたか。黒騎士……気に入りました。黒魔道士なんて野暮な響きの称号より、よっぽど」

 穏やかな微笑を浮かべるヴァルキュリャの反応に安堵したカイトは、ヴァルキュリャの目的を訊いてみることにした。

「ヴァルキュリャ卿、わざわざ足を運ばれた理由を伺ってもよろしいですか?」

「挨拶にきただけ……というのも、あからさまに嘘っぽいですね。ここは失礼を承知で申し上げましょう。品定めに来ました」

 ヴァルキュリャの率直な物言いにカイトは好感を抱いた。

「……お眼鏡にかないましたか?」

「いくつか伺っても?」

 答えを明示せずに小首を傾げてみせるヴァルキュリャに対して、カイトは首肯して返した。

「お答えできることでしたら」

「シーマ陛下は、カイト卿をとても高く評価しているように感じますが、どうお考えですか?」

「そうですね……シーマ陛下は徹底した能力主義者だと聞いています。治癒魔法と無属性魔法という稀有な属性の使い手である点が、興味を惹いているんだと思います」

 カイトの言葉に応じるように左手の中指でピジョンブラッドが怪しく輝く。

 ヴァルキュリャは質問を続けた。

「カイト卿は異なる世界から転移してきたと聞いています。その卿の目から見て、現在のテルスの情勢はどう映りますか?」

「テルスの情勢は、俺がいた世界のある時期によく似ています……しかし、魔法が実在して魔道士団が軍隊に取って代わっている点は大きく異なります。なので、そのまま重ねて見ることはできません。でも……嫌な予感はします」

「いやな予感、とは?」

「……大戦、それも世界全体を巻き込む規模のものが起こる予感です」

「卿がいた世界では、それが起こったんですね?」

 口調から察したヴァルキュリャが確認するように問うと、カイトは記憶にある地球の世界史を脳内で広げながら一呼吸置いて答えた。

「はい。数千万人の犠牲者を出した二度の世界大戦を経て、二極体制という二つの大国による対立へと……」

 カイトが要約して口にした短い内容に対して、ヴァルキュリャは驚きを隠さなかった。

「数千万……!? しかも二度、ですか……? にわかには信じがたいですね……卿は、それがテルスでも起こるとお考えなんですか?」

「現段階では、あくまで予感に過ぎませんし、形も異なるんでしょうが……危惧を抱いていることを否定はできません」

「カイト卿がいた世界での、その大戦について、もう少しお聞かせ願えませんか」

「分かりました。そうですね、どこからお話しすれば……」

 カイトは地球における二度の世界大戦について、記憶を辿りながら要点をかいつまんでヴァルキュリャへ伝えた。

 ヴァルキュリャは興味深そうにカイトの語る内容に耳を傾けた。

 カイトとヴァルキュリャの会話は夜が更けるまで続き、いつしか二人の間に流れる空気は打ち解けたものとなっていた。

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